ジャズがニューオーリンズで生まれたのは、19世紀末から今世紀初頭にかけてである。遊廓の座興として発生したわけだが、クリオールや黒人の名手が次々に現れ、バデｨ・ボールデン、フレディ・ケパード、ジェリー・ロール・モートン、キング・オリバー、ルイ・アームストロング、シドニー・ベシェといった初期の巨人たちがこの街を舞台として大活躍した。

　1917年に遊廓が禁止されて（第一次大戦参戦のため）、ジャズメンの多くはシカゴやカンサス、ニューヨークなどへ散っていったが、ジョージ・ルイスのように地元に留まり、細々と演奏を続けた人々もいた。今を時めくマルサリス兄弟の父エリスもそういう一人であり、現在彼の教え子たち（息子やテレンス・ブランチャードなど多士済々）がジャズ界の旗手に育ったことで、再びニューオーリンズはジャズの原点として脚光を浴びている。だが、この街にはそれ以上に注目を集める強力バンドがいるのだ。

　さて、今回紹介するのはニューオーリンズ出身のライブ・バンド"ネヴィル・ブラザース"の新作ビデオ「スーパー・セッション�]」（ビデオ・アーツ）である。四人兄弟のこのバンドは、Ｒ＆Ｂ系の音楽を基調としているが、伝統的なジャズの影響が非常に強く、またファンクやレゲエ、ロックなども自在に取り入れて実にユニークなサザン・サウンドをつくりあげている。

　リーダーの長男アートはミーターズなどで活躍した大ベテランであり、二男チャールズはレイ・チャールズやＢ・Ｂ・キングとの活動で知られ、三男のアーロンは今年のグラミー賞をリンダ・ロンシュタットとのデュオで受賞した名バラード歌手。末弟のシリルもアラン・トゥーサンなどと活動した実力者揃いである。

　彼らが超大物ハービー・ハンコックを音楽監督として迎え、強力なこのライヴ・セッションを1988年12月に地元で行なったのがこのビデオであり、彼らの多彩でパワフルな演奏は多くのゲスト（ハービー、グレッグ・オールマン、ダーティ・ダズン・ブラスバンドなど）を巻きこみ圧倒的に楽しいステージとなった。

　それは創生期のジャズの猥雑な魅力を彷彿させるもので、混血の文化で栄えたこの街を見事に象徴していた。