若手ドラマー、ラルフ・ピーターソンが新作《フォーテット》（サムシン・エルス）を発表した。前作《ボリション》から一年近く経つわけだが、今作はこれまでとメンバーも代わり、ラルフの新生面が打ち出された力作だ。

　ラルフ・ピーターソンの初リーダー作《Ｖ》は２年前にリリースされ、ジャズ界の話題をさらい、数々の賞に輝いたが、その後も《トライアンギュラー》《ボリション》と優れたアルバムをたて続けに発表し、若手ドラマー（1962年生まれ）としては異例の高い評価を受けている。

　かつて、トニー・ウイリアムスやジャック・ディジョネットが若くして登場した時を想わせる、ラルフの活躍ぶりだが、今作《フォーテット》もまったく期待を裏切らない充実した内容だ。これまでの三作では女流ピアニスト、ジェリ・アレンが共演で加わり、ラルフと激しいインタープレイを展開し、その緊張感が作品の魅力となっていたのだが、新作ではジェリ・アレンが抜け、ラルフは若手のメンバーを従えて新しいコンセプトを打ちだしており、それが見事に成功している。良い意味でのリラックスした余裕が感じられ、アグレッシヴさが強調されてきたこれまでより、むしろ奥行きが深くなった気がする。

　今作に特徴的なのは、ジャック・ディジョネットのバンド「スペシャル・エディション」の音楽を、ラルフは相当に意識していることだ。ドラマーとしての実力や音楽的スケールの大きさから言って、ラルフはジャックの後継者たり得るし、おそらく90年代はそういう役割を果たしていくだろう。

　ドラマーがリーダーである場合、アート・ブレイキーやトニー・ウイリアムスのようにショー・アップと名人芸が主体になりがちだが、ラルフはジャックと同じく総合的な音楽性を重視するプレイヤーであり、単なる名ドラマーのレベルを超えた存在だ。

　ラルフはＯＴＢバンドに参加して以来、毎年のように山中湖のマウント・フジ・ジャズ・フェスティバルに来日しているが、おそらく今年も圧倒的なステージぶりを見せてくれるだろう。