キース・ジャレット、ジャック・ディジョネット、ゲイリー・ピーコック、この三人の大者からなる「スタンダーズ」は現在のジャズ界で最高のユニットとして圧倒的な評価を得ているが、このほど一年ぶりに新作《オール・オヴ・ユー》（ECM）を発表した。

　それぞれが、通常は自らの創作活動を行ないながら、時たまにだけグループを結成するスペシャル・プロジェクトである「スタンダーズ」は誰がリーダーというわけでもない不思議なユニットだ。これまでに発表された六枚のアルバムはいずれも素晴らしい出来で一つとして平凡な作品がないのだから驚異的なことである。

　彼らは、いずれも60年代から第一線で活躍し、天才児の名をほしいままにしてきたヴァーチュオーソであり、フリー・ジャズ全盛時より現在まで常にクリエイティヴな活動でシリアスなジャズを支えてきた強者である。

　一番年長のゲイリーはアルバート・アイラーの歴史的名作《スピリチュアル・ユニティ》で革新的べース奏者として高名をはせ、その後、漂泊の旅に出て長く日本に住んでいたことで知られるが、このユニットではまとめ役として他の二人を自由に遊ばせつつコントロールしているのが特徴だ。

　常日頃は前衛的演奏で押しまくるジャック・ディジョネットも、このユニットではスタンダード・ジャズの面白みを楽しんでやろうという余裕が感じられる。ゲイリーもジャックも60年代にビル・エバンス・トリオで鍛えられた経歴を持つだけに、キースの奔放なピアノを苦もなく受け止めてみせる。それどころか挑発して、キースにマンネリズムを許さない厳しい演奏で前衛的な解釈のスタンダードに組み換えてしまうのだ。

　表現形態としては往年のビル・エバンス・トリオに酷似しているが、音楽的冒険という意味ではスタンダーズの方がはるかに上だ。そして、最新作は彼らの緊張感と遊び心と超絶技巧が頂点に達した凄いアルバムに仕上がった。

　録音は昨年10月ケルンでのライブで、バードやマイルス、コルトレーン、ロリンズ、エバンスなど先輩たちに捧げたアルバムであり、彼らの名演で知られる曲をスタンダーズは見事にカバーして新解釈を示してみせる。ピアノ・トリオのアルバムとしては、恐らく歴史的な傑作になるだろう。