ECM - 北方ロマン主義な名盤20枚｜ECM - プログレDNAな名盤20枚／福島恵一

		原田さんのＥＣＭベスト５０は、コンプリート・コレクターらしく、全体をバランスよく見渡したうえで、お客様の好みも踏まえて選んだ、いわばテーラーメイド・ベスト。カフェのマスターとして大人の余裕を感じさせる選盤です。
		対して多田さんのは、ジャズでも、現代音楽でも、フリー・インプロでも、トラッド／エスニックでもないＥＣＭ独自のカラーを打ち出した「ＥＣＭの中のＥＣＭ」ベスト２０と「ジャズ耳」で選んだベスト２０の二本立てとなっています。
		ちなみに私のはＣ.Ｄ.フリードリヒからマーク・ロスコへの北方ロマン主義（ドイツ・ロマン派もここに含まれます）の流れを念頭に置いて選んだ、メランコリックに北へと向かう２０枚と、プログレＤＮＡなサウンド配置によりアブストラクトな強度をはらんだ２０枚（むしろ英国的かも）ですー。
	ＥＣＭ - 北方ロマン主義な名盤２０枚
1		ECM 1032 Ralph Towner Diary 低く垂れ込め凍てついた「北」の空／海に向けて放たれた馨しいメランコリー。
2		ECM 1060 Ralph Towner Solstice 中空に広げられた幾つもの色の帯が、次第ににじみ、溶け合って、ひとつになる。
3		ECM 1075 Jan Garbarek / Bobo Stenson Quartet Dansere 枯葉のように砕けやすいサウンドを踏みしめる、うつむいた、だが強靭な眼差し。
4		ECM 1077 Edward Vesala Nan Madol 寄せては返す太古の混沌からの絶え間ない生成。「うた」のかたちの芽吹き。
5		ECM 1083 Terje Rypdal After the Rain この透き通った繊細な慈しみは、果たして人類に向けられたものなのだろうか。
6		ECM 1198 Steve Eliovson Dawn Dance 何人にもただ一度限りしか許されない瑞々しくもはかないアドレッセンスの輝き。
7		ECM 1251 Dino Saluzzi Kultrum おぼろな夢の底をまさぐる声と打撃。荒れ果てた世界の彼方に響くバンドネオン。
8		ECM 1264 Alfred Harth This Earth ! 死の淵へと吸い寄せられるように鏡の中に降りていくポール・ブレイのピアノ。
9		ECM 1320 Pau Bley Fragments 暗がりへ、静けさへ、自らの精神の深みへとゆっくりと歩みを進めていく者たち。
10		ECM 1325 NS Arvo Pärt : Arbos The Hilliard Ensemble et al. のびやかな声／たなびく弦がゆるゆると枝を伸ばし、天蓋に沿って弧を描く。
11		ECM 1384 Stephan Micus The Music of Stones ほの暗く重くしめやかな聖なる空間それ自体の息づき／鼓動／体温が触れてくる。
12		ECM 1399 NS Meredith Monk Book of Days モノクローム世界で互いの肩に手を置き、触れあい、睦みあう声の肌触り。
13		ECM 1426 Paul Giger Alpstein 碧天にくっきりと鋭利な北の稜線が浮かび、張り詰めた音が幾重にもこだまする。
14		ECM 1446 Tamia / Pierre Favre Solitudes 匂うようにたちのぼる声が描き出す、夜空にかかる虹のようにありえない光景。
15		ECM 1610 Lena Willemark / Ale Möller Agram しんしんと降り積もる静寂の重みを、切り裂き突き破る声／打撃の呪術的強度。
16		ECM 1669 NS Giya Kancheli Magnum Ignotum 地の底深く降りていく弦の響きと大地から立ちのぼる声（グルジア正教の詠唱）。
17		ECM 1692 NS Eleni Karaindrou Eternity and a Day 冷たく降り積もる時間と引き延ばされ重くのしかかる雪による孤独な北の情景。
18		ECM 1774 NS Bach / Webern Ricercar 色合いを変えながら受け渡される響き。発芽による原植物のメタモルフォーゼ。
19		ECM 2057 Savina Yannatou Songs of an Other 張り詰めた音の綱の上で、薄く滑らかな声の刃が静かに空間を切り裂いていく。
20		ECM 2070 NS Eleni Karaindrou Dust of Time 「南国」に降る雪と吹きすさぶ寒風に向かい、かじかむ指先を暖める音の灯火。

	ＥＣＭ - プログレＤＮＡな名盤２０枚
1		ECM 1004 Marion Brown Afternoon Of A Georgia Faun 暗闇の中、手探りで（響くか／響かないか）繰り広げられる音響触覚実験。
2		ECM 1005 Music Improvisation Company Music Improvisation Company Jamie Muirの参加ゆえか「太陽と戦慄」期クリムゾン的交感が随所に聴かれる。
3		ECM 1136 Egberto Gismonti Solo 音を思い描く意識の速度を超えて、弦の震えをそのまま空間に刻みつけるわざ。
4		ECM 1179 Bengt Berger Bitter Funeral Beer 現地録音の不思議なアンビエント感に溶け込んでいくサイクリックな運動の高揚。
5		ECM 1187 Rainer Brüninghaus Freigeweht 車窓に映る街の灯を眺めるうち、いつの間にか空高く飛翔している音の眺め。
6		ECM 1190 Pat Metheny & Lyle Mays As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls 幾つかの場面だけ妙にはっきり覚えているいつか見た夢（いつだったか）。
7		ECM 1336 NS Meredith Monk Do You Be 引き締まった声の身体を持つアスリートたちの一糸乱れぬコリオグラフィ。
8		ECM 1350 The Bill Frisell Band Lookout for Hope 伝説の来日公演メンバーによるＥＣＭ最終作。「アメリカ」に浸りこまない。
9		ECM 1451 Barre Philips Aquarian Rain コントラバスの弦の幾何学的ダンスを彩り、空間をたわませるテープと打楽器。
10		ECM 1490 Heiner Goebbels Shadow / Landscape with Argonauts 街行く人々のつぶやきからバスのエンジン音まで音響部品の精密極まりない構築。
11		ECM 1524 Sidsel Endresen Exile ダグマー・クラウゼを思わせる硬質な声の輪郭と深々とした旋律の拮抗。
12		ECM 1525 NS Jan Garbarek / The Hilliard Ensemble Officium ガルバレクの走らせる筆の跡により、完璧な建築／天上の調べが地に舞い降りる。
13		ECM 1543 Italian Instabile Orchestra Skies of Europe イタリアではフリー・ジャズだってこんなにもメロディアス。カンタービレ！
14		ECM 1588 Louis Sclavis Sextet Les Violences de Rameau 加速／増殖した細部が組織を食い破り輪郭をかき乱す。遺伝子組換18世紀歌劇。
15		ECM 1643 NS Maya Homburger / Barry Guy Ceremony コントラバスのひと弓に圧縮されて映し出される全方位の移りゆく景色。
16		ECM 1678 Joe Maneri / Barre Phillips / Mat Maneri Tales of Rohnlief 意識のはるか下方にうごめく未加工の音響のたゆたい／音の生まれ出る現場。
17		ECM 1735 NS Luciano Berio / Kim Kashkashian Voci 飛翔するヴィオラとだみ声の民俗ヴォーカルの絡みはオザンナの熱さを思わせる。
18		ECM 1852 Evan Parker Electro-Acoustic Ensemble Memory / Vision 眼に見えぬ力が地を這い空を飛び四方八方から襲い掛かり渦を巻く集合的音響。
19		ECM 2042 Jon Balke / Amina Alaoui Siwan 異なる文化の安易な「融合」ではなく、優美で精妙なモザイクによる力の均衡。
20		ECM 2086 Arve Henriksen Cartography ジャスミン（東洋への遠い憧れ）のつんと香る霧深い森のしめやかな空気。