January 26, 2012
|
| テオ・アンゲロプロス Theo
Angelopoulos
|
|
|
| |
アンゲロプロスの霊感の源泉は、彼の故郷であるギリシアの音楽と身振りの内部に潜む、ある種の特別な言語と風景のなかにある…。それらはいわゆる言語ではないが、しかしながら、アンゲロプロスによる世界の叙事詩的な脚色においては、カメラの視線はたしかに人びとの顔と風景を捉えているものの、音楽と身振りの奥に潜む言語と風景こそが、他の要素よりも一段と勝ったものとなっている。サウンド（音）は、視線では捕らえられずカメラのショットの外側に位置するものでありながら、アンゲロプロスの映画では、そのほとんどにおいて、映像の組み合わせと同じくらいに重要な部分を担っている。作品内部の構成、その焦点の深さ、ひとつの連続した場面の動きと配列、こうしたものが湛える美によって、アンゲロプロスは、無声映画時代の記憶を甦らせているばかりでなく、想像力に富み、黙想へと誘い、喚起的な可能性を有している“音の力”を十全に活用することで──ロシア出身の神秘的でロマンティックな映画作家アンドレイ・タルコフスキー
Andrei Tarkovsky のように──、その点においては唯一ゴダールが互角な存在とも言えるが、音の出る映画（サウンド・フィルム）の世界をつねに刷新しているのである。 ヴォルフラム・シュッテ
Wolfram Schütte
《ミュージック・フォー・フィルムズ
Music for Films》（1991）［ECM 1429］
ライナーノーツより
|
|
| |
映画監督テオ・アンゲロプロス
Theo Angelopoulos （1935-2012）は、映画作品のなかに彼自身のひとつの宇宙を創造しました。ニューヨーク・タイムズが死亡記事で記している通り、これらの作品は、「ハリウッドのスタジオが供する映画とは全くの正反対にあるもの」でした。
|
|
| |
各報道機関がその長い創作人生に関する情報を調べ蓄積させていたように、この数日間に、アンゲロプロスの作品について世界各地で沢山の言葉が書かれていることと思います。この極めて強い影響力を誇った芸術家アンゲロプロスが作った、初期の作品群と後期の“沈黙三部作
Trilogy of Silence”──「シテール島への船出
Voyage to Cythera」、「蜂の旅人
The Beekeeper」、「霧の中の風景
Landscape in the Mist」──は、ECMの審美的理念にも衝撃を与え続けてきました。マンフレート・アイヒャー
Manfred Eicher は、1990年のインタヴューで次のように語っています。
|
|
| |
アンゲロプロスは物事を無言のまま凝視めている。独特なロング・ショットやヨルゴス・アルヴァニティス
Giorgos Arvanatis の撮影から生まれるアンゲロプロス特有の時間の感覚は、私に、甚大な影響を与え続けてきた。私は彼の映画作品を観ると、私自身の音楽制作の現場においても、それと同じような何かしら「霊気を纏った」ものに到達できないかどうか、さまざまに思い巡らすことをずっと繰り返してきた。
|
|
| |
この20年間に亙って、ECMでは、エレニ・カラインドルー
Eleni Karaindrou がアンゲロプロスの映画のために作曲した音楽を収録したアルバムを発行し続けてきました。これらのアルバムは、以下に引用する2007年に刊行された『ホライズンズ・タッチト
Horizons Touched』所収の文章でアンゲロプロスが自ら説明しているように、どれも一般的な“サウンドトラック
soundtracks”と称される以上のものです。
|
|
| |
たとえば、あなたが映画のなかである音楽の断片を耳にしたとき、その瞬間、あなたは、映像と音楽の間に潜む深い水準（レヴェル）での、共通の言語を通じたコミュニケーションと出会い、心の内部にまったく予期しなかった感覚を生じさせているわけです。わたしがエレニ・カラインドルーという音楽家のなかに見出す音楽的言語とは、それはつまり、わたしが自分の撮影したい映像イメージを思い描くのとまさに同じ瞬間に、そこに音楽として現われ出てくるようなものです。ですから、音・響きは、それが実際に生まれて鳴り響く前から、すでにわたしの元に存在しているのです。それゆえにこそ、わたしと彼女が協力し合って作品づくりに携わる際、そこには──あるいは少なくともわたし個人の思いを述べれば──絶えず類例のない特質が備わっているわけです。
|
|
| |
アンゲロプロスの映画作品のために書かれた音楽を収録したECMのディスクは、以下の6枚です。
|
|
 |
《ミュージック・フォー・フィルムズ
Music for Films》（ECM 1429）
Music For Films focused primarily upon
the director's great Trilogy of Silence (Voyage To
Cythera, The Beekeeper, and Landscape In The Mist).
|
|
 |
《こうのとり、たちずさんで
The Suspended Step of the Stork》（ECM 1456）
The second presented music written for
The Suspended Step Of The Stork, Angelopoulos'
critically-heralded 1991 film.
|
|
 |
《ユリシーズの瞳 Ulysses' Gaze》（ECM
New Series 1570）
Ulysses' Gaze was awarded the Grand
Jury Prize at the 1995 Cannes Film Festival.
Ulysses' Gaze, the album, is the third ECM recording to
feature music written by Eleni Karaindrou for her
countryman Angelopoulos.
Kim Kashkashian viola
soloist
|
|
 |
《永遠と一日 Eternity and a Day》（ECM New Series 1692）
The Golden Palm winning film by Theo
Angelopoulous.
|
|
 |
《ザ・ウィーピング・メドウ［エレニの旅］
The Weeping Meadow》（ECM New Series 1885）
|
|
 |
《ダスト・オブ・タイム
Dust of Time》（ECM New Series 2070）
Music for the film by Theo
Angelopoulos, with Willem Dafoe, Bruno Ganz, Irene Jacob,
Christiane Paul, Michel Piccoli
|
|
 
|
そしてカラインドルーの映画音楽で構成されたコンサートのライヴ録音盤である、《故郷喪失への哀歌
Elegy of the Uprooting》が、CDとDVDの両方で入手可能です。
CD: ECM New Series 1952/53
DVD: ECM New Series 5506
|
|
| |
(c) ECM Records, Munich. Used by
permission.
|
|
| |
※本記事は、ECM が発信する最新情報を ECM Records の許諾を得て翻訳掲載するものです。（musicircus） |
|