ECM 1415/16　Kenny Wheeler - Music For Large & Small Ensembles

ECM review

Album cover reproduced by courtesy of ECM Records, Munich
●ジャケット写真はECM Recordsの許諾のもと、掲載しております。（musicircus）

Kenny Wheeler Music For Large & Small Ensembles
Kenny Wheeler fluegelhorn, trumpet John Abercrombie guitar John Taylor piano Dave Holland bass Peter Erskine drums Norma Winstone vocal Derek Watkins trumpet Henry Lowther trumpet Alan Downey trumpet Ian Hamer trumpet ECM 1415/16	Dave Horler trombone Chris Pyne trombone Paul Rutherford trombone Hugh Fraser trombone Ray Warleigh saxophones Duncan Lamont saxophones Evan Parker saxophones Julian Agüelles saxophones Stan Sulzmann tenor saxophone, flute

The Sweet Time Suite, Part I - VIII
Sophie
Sea Lady
Gentle Piece
Trio
Duets I - III
Trio
By Myself

Digital Recording, January and February 1990
"Large Ensembles" recorded at CTS Studio, London
"Small Ensembles" recorded at Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Mixed at Rainbow Studio
Photo: Caroline Forbes
Cover Design: Barbara Wojirsch
Produced by Manfred Eicher

ECM 1415/16

国内盤ＣＤ廃盤

　ケニー・ホイーラーは1930年カナダのトロント出身。1952年以降は英国で音楽活動を行なっている。1950年代に、ウィリアム・ルッソに対位法を、リチャード・ロドニー・ベネットに作曲を学ぶ。ウィリアム［ビル］・ルッソは1940年代にレニー・トリスターノに師事し、スタン・ケントン楽団の作曲・編曲者を務め、またシカゴ・ジャズ・アンサンブルを率いて、バーンスタインとも親交があった。ジャズ、クラシック、現代音楽の境界を超えた多才な音楽家として活躍した。このルッソの資質が後のホイーラーの音楽へと受け継がれていった側面もあったのではないだろうか。

　ホイーラーの音楽が醸し出すイメージは、水平線に沈む夕陽に照り映えるきらめく海面に溢れる光の反射模様を思わせる。絶え間なく繰り返される、自然が造型するたしかな運動。しかし、時がしばらく過ぎ去ってしまえば、そうした美しい情景も見る間に闇の奥へと包まれ消え去ってしまう。そのような永遠と一瞬が同時に封印された響きがここにある。

　本作のライナーノートを書いているスティーヴ・レイクの筆がいつになく躍っているように思える。華麗で複雑なアラベスクを聴かせる大編成ブラス・バンド。本作のために集まったメンバーは、いずれも1970年代の英国即興シーンを支えた強者ばかりだ。空間を深く呼吸して、悠然と湾曲させてしまうジョン・アバークロンビーのギターとデイヴ・ホランドのベース。そこにアジマスの盟友二人、ジョン・テイラーのピアノとノーマ・ウィンストンの声が魔法のタッチで繊細な色彩を与える。スタン・ケントン楽団仕込みのピーター・アースキンのドラムは物理法則を超えた全方位的な重力を差し出す。最上の知性と美意識が融合した夢のように豪奢な時間が拡がる。

　欧州フリー・ミュージック・シーンでの尽力の傍ら、長い活動歴のなかでビッグ・バンド作品も多く手がけてきたホイーラーだが（最初のビッグ・バンド・アルバム《song for someone》は2004年にＣＤ復刻）、その精華がここに万全のかたちで記録された。ホイーラーにとっても、英国ジャズにとっても、記念すべき金字塔としてそびえたつアルバム。

堀内宏公
Hiromasa Horiuchi

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