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ECM review

Album cover reproduced by courtesy of ECM Records, Munich
●ジャケット写真はECM Recordsの許諾のもと、掲載しております。（musicircus）
Ketil Bjørnstad
David Darling
Terje Rypdal
Jon Christensen
The Sea

Ketil Bjørnstad piano
David Darling cello
Terje Rypdal guitar
Jon Christensen drums

ECM 1545
The Sea I-XII

 Recorded September 1994 Rainbow Studio, Oslo
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Cover: Jan Jedlička
Photos: Rolf M. Aagaard
Layout: Barbara Wojirsch
Produced by Manfred Eicher

ECM 1545
ケティル・ビヨルンスタ / 海
国内盤発売：1995/9/25 POCJ-1295　\2,800
　
　 　重く、暗く、うねり揺れる波間に漂うケティル・ビヨルンスタの弾くピアノ。リピダルのギターは岩礁に当たって砕ける飛沫が一瞬だけ作る虹。闇または無限の青空を描くダーリングのチェロ。ヨン・クリステンセンのドラムがピアノに干渉する間際に発生する淡い亀裂の強さと痛み、そして郷愁。海底へと沈み、海流へと引き込まれてゆく水の生命。 　
　 　喪失の光とともに心奥を突き刺し、沈黙と非在の彼方への径路を辿る――。本作は、永遠へのイメージを臨界点まで高めた果てに垣間見られてしまった異界の音楽だとしか言いようがない。生の世界に留まり先を急ぐ者にとっては、立ち止まって耳をすます対象ではないかもしれない。しかしここには、中断され、遅滞された意識が辿る不在の歩行の跫（あしおと）が奇跡的に刻まれている。時間は堅い紐を緩め、虚の海へと聴き手を攫（さら）うことだろう。 　
　 　五月の越前海岸で、小野好恵さんの散骨に際して小さな漁船の上で流されたのは、画家・宇佐美圭司さんが選んだこのＣＤだった。飛沫を受けたラジカセはすぐに壊れて止まり、揺れる海のなかで沈黙の響きがいつまでも流れ続けたという。 　
　

堀内宏公
Hiromasa Horiuchi

 　

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