ジャンゴの“結構な”時代を偲んで。

「Bal Tabarin（バル・タバラン）」といっても、ここでご紹介するのは、
20世紀初頭にパリのモンマルトルで大いに栄えていた、
かのジャンゴ・ラインハルト（Django Reihnardt）も演奏していたという、
あのバルのことではありません。

Bal Tabarin は、ベルギー発マヌーシュバンドの名前です。

Bal Tabarin ■
Hans Mortelmans (guitare,choeur)
Lodewijk Dedain (guitare, choeur)
Lieven Keymolen (Cla.)
Benny Van Acker (contrebasse)
Alexandre Tripodi (violon)

Django 大好きを自認する、ベルギー出身の5人組 Bal Tabarin は、
彼らと同じくベルギーはリベルシー生まれで、作曲家としても、
またギタリストとしても尊敬するジャンゴの生誕100周年を記念して、
"Joli Temps Django" という曲を作りました。

ただし、格式ばって祝う…というよりも、軽い感じで
ジャンゴの心意気だとか独特のコードに敬意を表したとか。

作曲はもちろん、演奏も自分たちでこなし、
切り絵を使ったかわいいアニメーション映像まで作っていますが、
これはギター担当 Hans Mortelmans 氏自作とのことです。

曲調は明らかなマヌーシュ・ジャズなのです。

ゆるい雰囲気のアニメ映像は、タバコをふかして
呑気にギターを奏でているジャンゴの姿から始まります。

ジャンゴが乗っているであろうキャラバンは、
生まれ故郷のリベルシーからパリに移動、
気がついたら燃えていて、
Revue Negre とジョセフィン・ベーカー、
ナチスを彷彿とさせる集団の台頭、
爆弾を落とす飛行機、
失業者増加にデモ行進、
おびただしい契約書の束とお金… あれ？　

映像も歌詞も、どちらかといえば皮肉に満ちた要素のほうが印象に残ります。 ■

フランス語の "Joli" という単語をよい意味でしか使ったことがなかったので、
"Joli temps" ときいてベルエポックというか
古き良き時代を意味するのかと思っていたのですが、
ここでいう "Joli" はきっと皮肉った意味なのだと思います。

そして、ジャンゴの生きた時代は、
決していいことばかりではなかったのでしょう。

それでも、こんな音楽を生み出した天才ギタリストがいて、
今の時代にも受け継がれているマヌーシュ・ジャズを残したわけです。

そういう意味では、"joli"、つまり素敵な時代でもあった、
ともいえるのかもしれませんね。

ちなみに、このアニメ映像に出てくる時代背景は、
すべて、ジャンゴ・ラインハルトが生きていた時代の現実に即しています。

ジャンゴのことをよく知っていないとつくれない映像であり、
逆にジャンゴのことを知ると、この映像がもっと楽しく見られるのではないでしょうか。

現在、ジャンゴに関する良本を日本語で読むことができるので、ご紹介しておきます。

	◆ジャンゴ・ラインハルトの伝説～音楽に愛されたジプシー・ギタリスト（単行本）マイケル・ドレーニ（著）、小山景子（翻訳）
	◆ジャンゴ・ラインハルト伝～ジャンゴわが兄弟（単行本）シャルル・ドゥローネ（著）、平野徹（翻訳）

前者は、ジャンゴ研究家としてあらゆる文献や
家族に対するインタビューなどからジャンゴの素顔を描き出し、
後者は、ジャズ批評家としてジャンゴと同じ時代を生き、
ジャンゴにかかわってきた立場から、
素顔のジャンゴを紹介しています。
ぜひお読みになってみてください。


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