ジャンゴサウンドとの遭遇。David Reinhardt Trio＠東京JAZZ 2010

今年も、「東京JAZZ」に行ってきました。

毎年、大物ミュージシャンがあまた登場するこの企画ですが、
今回のわがお目当てのアーティストは、
フランスからやってきたギタリスト、
ダヴィド・ラインハルト（David Reinhardt）率いるトリオです。

「ラインハルト」の苗字からわかるように、
ダヴィドはマヌーシュ・ジャズの生みの親である
ジャンゴ・ラインハルト（Django Reinhardt）のお孫さんにあたります。

ジャンゴの息子であるお父様の故・バビク・ラインハルト（Babik Renhardt）も
有名なギタリストでしたが、その９人の子どものうち、
唯一音楽の道に進んだのがこのダヴィドです。

６歳で、父親のバビクとともにオフィシャルな場での演奏を経験して以来、
有名なマヌーシュ・ジャズミュージシャンとの共演を重ねてきたダヴィドですが、
2008年に結成した自身のトリオは、
ギター、ハモンド・オルガンにドラムと、楽器編成をみれば
一目でマヌーシュ・ジャズは演奏しないだろう、ということがわかるものでした。

思えばバビクも、
マヌーシュ・ジャズだけでなく、
似たような編成のバンドを結成してフュージョンをやっていた気がします。

24歳にしてほぼ20年近いギタリストとしてのキャリアを持つダヴィド。

家柄から考えても、マヌーシュ・ジャズ界において、
かかる期待は相当のものでしょう。

そんな彼が敢えて、ジャンゴの影響を感じさせない
ギタージャズトリオを組んだとしても、不思議ではありません。

マヌーシュ・ジャズが大好きな私ですが、
今回は、そんな彼を、ジャンゴの孫としてではなく、
若手ジャズギタリストとして生で観てみたいと思い、
9月5日、東京国際フォーラム前の広場に出かけたのでした。

今回は、ドラムに、フロラン・ギャック（Florent Gac）、
ハモンド・オルガンには、ヨアン・セラ（Yoann Serra）を
従えての来日でした。

ダヴィドはさっそうと登場し、
少々複雑な曲でも気負うことなく弾きこなし、
実に軽やかに音を放っていきます。

ハモンド・オルガンのほどよい絡みも心地よく響きます。
無料ライブの割には演奏時間も長く、すっかり幸せな気分に浸りきった頃、
ふいに聴き覚えのあるメロディが耳に飛び込んできたのです。

「あれ？　この曲は…？」

そうなんです。まったく期待していなかったのですが、
このライブで、彼はなんと３曲ほど、ジャンゴが作曲した
マヌーシュ・ジャズのスタンダードを演奏したのでした。

実は最新アルバム“The way of heart”にも、
ジャンゴの曲は１曲も入っていなかったので、
私はてっきり、「ジャンゴの孫」という枕詞が付きまといがちなダヴィドが、
自身のトリオで活動することで、敢えてジャンゴとのつながりを
避けようとしているのではないかとばかり思っていました。

でも、きっとダヴィドなりに、ジャンゴに向き合い、
ジャンゴの息吹を受け継ごうとしているのでしょう。

ギター・トリオの演奏で聴く我が愛しの名曲“Nuages”は、
それはそれは優しい響きで、心に沁み入りました。

思いがけず好きな曲が聴けるというのも、また、いいものです。


	Espèces d'espaces Aska Nagai	さまざまな空間長井明日香