ニューヨークのジャズ三昧のはずが…。ギリギリSmoke体験の話

先日、思い立ってニューヨークに行ってきました。目的は、911から10年を経た街をみること、友人たちに会うこと、そして「ジャズを聴くこと」の3点です。

5年前に同地を訪れた時は、老舗ジャズクラブ“Village Vanguard（ヴィレッジ・ヴァンガード）” ■に行ったのですが、予約をせず行ったところ満席で、1st set には入れませんでした。その時は 2nd set の Waiting List に入れてもらい、どうにかライブを観ることができましたが、そんな経験からも、今回の旅では、ひとつぐらいお目当てのジャズクラブに行きたいという気概だけは十分あったのです。

ニューヨークで気になっていたのは、こんなジャズクラブです。

Fat Cat ■
Iridium ■
Smalls ■
Smoke ■
Jazz@Lincoln Center ■

とくに、“Live at Smalls（ライブ・アット・スモールズ）”シリーズを愛聴している身として、Smalls はぜひ足を運びたいところです。また、Jazz at Lincoln Center も、リンカーン・センター・ジャズ・オーケストラ（LCJO）を一度ナマできいてみたいという思いからリスト入りとなりました。友人たちは、私がジャズ好きであることを知っていますし、私も「観光は必要ない。ジャズライブがひとつみられればそれでいい」と常日頃言っているので、今回も一度は連れていくと約束してくれました。

まず１回目のチャンスが訪れたのは、ニューヨーク在住のジャズ・ミュージシャンの友人からの連絡です。「今晩知り合いがプレイしている Smalls のセッションに行こうと思う。12時待ち合わせでどう？」。魅力的な申し出ですが、そんな夜中にひとりで Smalls に行くには治安上の問題があります。「タクシーを使えばいいよ。あ、そんなことより前に、今から友達と家でディナーするから遊びにくる?　それから一緒にセッションへ行こう」。

そこで、居候させてくれている家主と一緒に、ディナーに預かることになりました。場所はウエスト・ハーレムです。あたりは薄暗いうえに、路上にはたむろして騒いでいる地元の人であふれています。メインストリートには警察署がどんと構えており、かえって治安が悪いのではないかと疑いたくなる雰囲気…ドキドキしていましたが、目的地に無事到着しました。

友人のアパートにはロフトが付いており、わいわいと夕食を楽しみました。が、そこで会話が盛り上がりすぎて、時間オーバー。この日の Smalls 行きは断念したのでした。

２回目のチャンスに備え、Jazz@Lincoln Center の入っているビルタイム・ワーナー・センタービルへ下見にも行きました。1F でチケットを購入して、専用エレベーターで上階に上がれば、素晴らしい空間が待っているはずです。忙しい LCJO が毎日演奏しているわけではありませんが（当たり前か）、50ドル前後で、一流ミュージシャンのパフォーマンスが楽しめるなんて最高の環境です。とりあえず出演者情報を得て、どのセッションにいけそうか考えることにしました。

でも、チャンスはなかなか巡ってきません。友人は、一番行き慣れているという“SMOKE”に行こうと言っていたものの、週末は料金が高くなるなどの制約もあり、ジャズクラブ経験をせぬまま、気が付いたら帰国2日前となりました。しかも、友人の仕事上の繁忙期が重なり、夜9時半になっても仕事が終わりません。これは明日、自分一人でジャズを観に行くしかないかなぁと考えながら、航空券をちらりと見やったところ、我が帰国便の出発時間は、何と翌日のお昼ではありませんか！　帰国までまだ1日はあると思っていたのですが、一日勘違いしていたようです。帰国便搭乗12時間前にその勘違いに気が付くなんて、マヌケにもほどがあります。今回は、ジャズをあきらめるしかなさそうです。

ところが、私の帰国日が翌日昼だったことを知った友人は、家に帰ってくるなり、夕飯も食べずに“SMOKE”に連れていってくれました。

時間は23時過ぎ。普通のセッションは終わっている時間帯ですが、正式名称“Smoke Jazz & Supper ClubLounge”ということで、実は料理もおいしいと評判のジャズクラブでもあるそうです。最低20ドルというミニマム・チャージを満たすべく、ラム肉のハンバーガーとギネスをあおりながらセッションタイムを楽しむことにしました。

この日の出演は、Mike LeDonne Quatet でした。

Mike LeDonne (Hammond B-3)
Eric Alexander (ts)
Peter Bernstein (g)
Joe Farnsworth (ds)

店には、この超有名なカルテットとセッションをしたいと、楽器を持った多くの人が集まっています。4人だけで演奏するメインステージが観たかったなぁと思っていたところ、セッション開始前に、突然この4人が演奏を始めたのです。4人が奏でる“Rock with you”はスウィンギーで楽しくて、ほんの一瞬でも SMOKE に連れてきてもらえて本当に良かったと思わせるものでした。

その後続いたセッションは、ゆるい雰囲気の中進められました。Joe Farnsworth がビールを飲みながら演奏していたのが印象に残っています。セッション参加者は、テナー奏者からドラマー、シンガーもいて、クァルテットに交じって演奏をしていました。このメンバーを従えて、Eric Alexander に代わって、あるいは交互でソロを取るなんて、なかなかできる機会はないでしょう。きっとそれぞれにとって、印象に残る夜になったことと思います。


	Espèces d'espaces Aska Nagai	さまざまな空間長井明日香