少し前に見たテレビのニュースでフランス人の肥満化が年々着々と進んでいる、何年か前に実施したテストと比べると何割増しだとかなんとか女性キャスターが悩ましげな表情で言っていた。

しかしこの彼女。テレビだと上半身しか見えないけどそれでもどぉ見ても
「肥満」とは程遠い体形。
ご本人も「え？そんなことは承知だわよ。もちろん」っつースタンスらしく図らずも「アナタ方も」と言いかけ慌てて「私達も注意しなくてはいけませんね。」と、とってつけたような笑顔で言い繕っていた（笑）

肥満。
いや〜ぁな言葉である。
実はフランスに来てから念には念を入れ家に体重計すら置かず見て見ぬ振りをしてきたアタシの涙ぐましいまでの努力がこのニュースのお陰ですっかり水の泡である（違）

なんつってもフランスにいるとまるで何かに憑かれたように食べたくなるヌテラ（ヘーゼルナッツ入りチョコレート・スプレッド＝イタリアン・ブランド（FERRERO社）←フランスの朝の定番）は毎朝毎晩もしくは単に小腹が減ったときのアタシのお楽しみである。──ちなみに日本にオーストラリアだかから輸入されてるヌテラとフランスのヌテラは微妙に味が違うと思う。はっきり言ってフランスのやつのが断然美味しい──だけでも大変なもんな気がするんだけど、昼ゴハンにやたらとよく食べるチーズをこれでもかってくらい振り掛けたパスタとか今日は鶏肉焼いてみよっかな〜、なんつー時についつい作ってしまう生クリームとワインのソースとか。はたまた暇に任せてしょっちゅう焼くパウンド・ケーキにはなんと毎回100グラム以上のバターと同量かそれ以上の砂糖入りである。これ以外にもなんでかここにいると日本にいると絶対に食べたくないと思うような甘いものがやたらと欲しくなるんである。
買い物をサボっていて食後にデザートがない日はとってもさびし〜い気持ちになるアタシ。

肥満度にとうとう目を向けなくてはいけない日が来てしまったからと言って「じゃあこれから毎晩腹筋50回ね♪」などとは口が裂けても言いたくない（笑）

さぁてどーっすっかな〜。つーことで
１．セルライト用のVICHYのボディ・ローションを薬局で購入♪←二週間経っても肌のすべすべ感は増したような気がするもののどぉも痩せたような気はしない。

２．テレビを見ながら寝転んでちょっとばかり下半身ストレッチをしてみることに。←すっかりドラマに夢中になって足が止まりそこで挫折。

３．うーん、うーん、と唸りながらとうとう泣く泣く食べる量を減らしてみたものの夜中に空腹で目が覚める始末。

そうしていた夏のあ・る・日。
我が家にラムゥが届く。

ラムゥ。

はっきり言ってこれを日本語で正式になんて呼ぶのかアタシは知らない。
多分フラ語だとRAMEUR？かなんかだと思う（曖昧・笑）

なんつーか簡単にいうとジム用のマシーンである。
んとねー、まず機械の前方になんか水平の棒がついてるのね〜。
でもってイスに跨ってその棒をひっぱるの。ひっぱる、ってくらいなのでその棒には真中らへんにワイヤーみたいのがついててそれが伸びるんである。
イスは前後に動くようになってるので前へ後ろへスイングしながらこの棒を引っ張るって仕組み。
でもってこの棒についてるワイヤーの強度は加減出来るようになってる。
まぁ〜言ってみればボート漕ぎ。

「こうしてるうちに太腿やら背中やら二の腕やらに筋肉がついてくれるのさ。はっはっは」と購入者のフランソワはかるーく言うんだけどぉ。。。。。。。。

ヤツはこの夏なんでか痩せることを決行すべくこのデッカイマシーンをアタシが止めるのにもてんで聞く耳を持たずまたしてもこの狭いアパートに持ち込んだのである。

ふと見るとこのクソ暑いのに冬用のフリースを着込み首にはタオルを巻きMDまで装着してやる気マンマン度をアピールしている。

「あ、そー。これやんのね。じゃあアタシテレビ見てこよっと♪」
とリビングのソファに避難避難。

「ねーねー、君もせっかくだからやってみてよ。結構楽しいからさ」
小一時間経った頃汗だくになったフランソワに声を掛けられた。

そう言われて渋々機械に跨がり引っ張ること10回。
はぁん。全然ヨユーじゃあん。

「ねー、足の筋肉とかじぇんじぇん痛くなんないんだけどぉ？」
「まだたったの10回じゃないか。これからだよ」
続けて無言で棒を引っ張るアタシ。
「ねー、アタシもなんか音楽欲し〜」
「はいはい。じゃあこれ貸してあげるから」
耳にヘッドホンをつけてびつくり。
なんと曲はアイスランドの歌姫ビヨークである。
（どーでもいいけど、おまいビヨークで良くボートが漕げるな。）

「やっぱいい、アリガト」とさっさとヘッドホンをはずして

「♪タラッタ〜タラッタ〜タラタ〜タラタラッタ〜〜ッタタタッタタタタ〜♪」と勝手にロッキーのテーマを出来る限りの低音で歌いながら引っ張り続ける。
あ。いいかも、これ。
やっぱ勝つにはロッキーだよね〜と自分の中でよく分からない納得をしながらノリノリで漕いでたら

「ダメダメ、歌なんか歌ってちゃ。シェリーきちんと腹式呼吸をしてリズムを作らないと」
にわかコーチになったフランソワがすかさずチェックを入れる。

腹式コキューったってさ〜、ハイ鼻から吸ってぇ、ハイ、口から吐いてぇ、って地味〜に音もなくボート漕いでんの超退屈なんだけどぉ〜。もぉ、やってらんなぁ〜い。

敢えてコギャルチックな抑揚をつけた悪態を口には出さず頭の中でつきながらそれから漕ぎ続けることさらに20回。


ちょっと待て。

イッ・タァ？・イ？


ふくらはぎと言わず太腿と言わず腰と言わず腕と言わずすっごいダルダルに痛いんである。

「ねー、アタシがさっき目ぇつぶってた時誰か強度変えたでしょ、そうでしょ、ね？」と思いたくなるくらいにどんどんとその重さが増してゆく感じ。


ゼェゼェゼェ。

肩で息をする感じで棒を戻して一体何カロリー消費されたのか表示を見る。

１００kcal。

１００？

ダルダルからさらにそれでも5分もがんばったのに？
コーラ一杯飲めばすっかり戻ってまう？

はぁ。

こんなんだったらあの暑さの中で天然サウナと化した部屋でダラダラ汗をカイテタホウガまだ簡単に痩せられるんじゃないかと思う。

なにはさておきソファになだれ込むように倒れこんで水を飲む。

9月中にまたやってくるかもと言われている今年の夏のあの殺人的な暑さを窓から入ってくるすっかりヒンヤリ涼しくなった風に当たりながらちょっとだけ期待してみるご都合主義全開なアタシであった。

・・・あれからラムゥには触っていない。

メ

2003年8月30日土曜日（A Paris, Samedi, 30, AOUT, 2003）