パリのメトロは演芸劇場だわね〜と誰にも言わないけど乗る度いつも思う。

 東京の地下鉄に乗ってても地下鉄は地下鉄本来の役割を着々とこなして時間通りにその場所に連れて行ってくれるだけだけどパリのメトロは一味違う。

 ストでメトロに乗れなくて地団駄踏んだザジにやたらと共感を覚えてしまうアタシである。

窓からのセーヌをバックにアコーディオンで古き良き時代の音楽を弾いて聞かせるお腹の出た中年のおじさんがいたり、♪タ〜タ〜タラ〜タラタラタラタララ〜♪と手動でまわすオルゴールを聞かせてくれるおじいちゃんがいたり、ラジオでお馴染みの流行のPOPをギターで聞かせてくれる長い黒髪を後ろで束ねたお兄さんに出会えたりするからである。

エッフェル塔のある6番線のBir-Hakeim駅へバイト主に呼ばれて会いに行った時にはなんとカラオケ機材を持ち込んで腰をフリフリ「ラ☆バンバ」を歌ってくれるセクシ〜ベイベー系のお姉ちゃんに出会えちゃったりもした。

みんな電車のリズムに合わせて上手に拍子を取りながらドアにもたれたり車両の一番前にあるつかまり棒で身体を支えながら演奏してくれる。

ガタンと電車が止まるとうっかりヨロけたりするのは多分新米の演奏家で年季の入ったおじさん達はぽっこりと出たお腹でバランスを取るのか曲の終わりに丁度合わせるように足を上手に踏ん張りながらニコっと笑う。

他に遭遇する確率が一番多いのは物乞い達。

日本のホームレスな方々は例えば「これ」と友人が1000円札を差し出した時も

「いりません。ホントにいりませんってば」ときっぱり断ったりしたそうだがパリの人々はそんな遠慮は絶対しない。

「事故にあった上に職も失って女房と4人の子供を養わなくてはなりません。どうぞレストランのチケットでも小銭でも結構ですから恵んでください」

そう行って乗客を一人一人まわって後ろのドアから松葉杖をつきながら40代の口ヒゲの男性が出て行ったと思うと次に入ってくるのは移民らしき50代突入か？くらいに見える女性である。国の言葉で泣きながらっていうかほとんど泣き叫びながら何かを訴えて手のひらを人々の顔の前で裏返す。

その泣き方があまりにも切ないのでついつい小銭を探してしまったことも一度や二度じゃない。

そうかと思うと「私は聾唖者です。このキーホルダーは5ユーロです。もしくはお心付けだけでも結構です」

そうプリントされた紙とイルカのキーホルダーを膝の上に置いてゆきまた静かに回収しに戻ってくる人もいる。

この間はなぜか小学生くらいの女の子が学校に行っているはずの時間なのに

「お父さんはいません。お母さんは病気で動けません。私はお腹がすいています」

そう悲しそうな声で訴えた。

その子がアタシの座っていたところにまわって来る前に降りる駅になったので席を立ったらなんと降りたホームでその女の子がさっき泣いていた女性に向かって

「ママ〜」と駆け寄った（笑）

ママ〜と呼ばれた女性は「サビーヌ。ママって呼ばないの。早くしなさい」そう女の子を次の車両に導いていた。

いつかは道端で物乞いをしている人が二人で「本日の収穫」を自慢し合っているところに行き合わせてしまったりした。スーパーのビニール袋に小銭がジャラジャラ入っていた。

人に聞くと彼らの収入は普通のサラリーマンの日収を上まわる日も多いそうである。

そんなこんなでパリのメトロで出会う物乞い達は立派なパフォーマーなんだと思うことにしたアタシ（笑）もちろん全部が全部嘘ではないのだろうけどお話が良く出来ていて感動させてくれれば小銭を出すし心に響かなければそのまま席を立つ。

その日ドアが開くと同時に

「ボンジュール。お邪魔をして申し訳ありません」

そう言ってその若者が入ってきた時にもやっぱり物乞いの人なんだろうと思ってそのまま読んでいた本に目を落とした。

「僕の名前はグザビエと言います。歳は28歳です。仕事はエンジニアです」

あ？

職はあるんだ？じゃあ何だろう？振り返って彼が楽器の類も持っていないので

歌手を目指しててイキナリアカペラで歌でも歌いだすんか？と

耳をダンボにして聞いていたら

「地球には男性と女性が半分ずつおります」

（？？？　ひゃーついにスピリチュアル系登場？）

でも28年生きてきましたが…….

僕には一度も彼女が出来たことがないんです！

この電車に乗っているマドモワゼルの皆様、よろしかったらこんな僕ですが是非お付き合いしましょう。恥ずかしがらずに勇気を出して

手をあげてください。

・・・・・・・。

お邪魔して申し訳ありませんでした。

皆様良い一日をお過ごしください。

彼はそう爽やかに言い残して次の車両に移って行った。

その後も彼に彼女が出来たのか出来ないのか時々思い出してしまうほど気になっているアタシである。

もし偶然パリのメトロで彼と思しき人に出会ってアナタがパリジャンとお付き合いをしても良いという心優しきマドモワゼルならアタシからも是非挙手をお願い致します。

彼にとっても皆様にとっても2004年が良い年でありますように。

2004年1月8日木曜日（A Paris, Jeudi, 8, JANVIER, ,2003）