それは５年前の冬。滞在中のパリのアパートに仕事から帰ってきた時のことである。

いきなり何の前触れもなくミゾオチから富士山三角形地帯が痛くなった。

時刻は午後の６時過ぎ。

とりあえずその頃の雇い主に「具合が悪い」と言って自室で横になることに。

横になったはいいけど痛いもんは痛い。どうしてもこうしても痛い。

背中を伸ばすと待ち受けてたようにズーンっと全身固まるくらいの激痛が走るしミゾオチも痛いけど背中だって痛い。

体の横側を下に寝てエビのように丸まってそれでも収まらずに膝を抱えてウンウン唸っていた。

額には当然のように脂汗。

１時間くらい過ぎた頃ちょうどアタシに会いに来ていた友人が部屋に様子を見に来てくれた。

　「ね〜医者呼ぼうか？」

  「ウエ〜」

 　↑本人ウィと言ってるつもりだが正常発音不可能。

  「呼ぶよ、医者」

  「ア〜」

そんなわけでそれからさらに小一時間経った頃医者が到着した。

白衣ナシ。♂。歳の頃３０歳前後。  

ボンソワー。と部屋に入ってきて名前と年齢と痛くなった経緯を聞かれ、その上身長、体重も言わされ、一日の喫煙量まで聞かれる。つーか激痛が絶え間なく襲ってきてて朦朧としてる時に、

んなもん知らんわ。と思いつつ  

ウッ。アッ。ゼェゼェ。

と間に激痛に耐える音声を挟みながらも素直に答える。

その昔病弱幼児で病院で毎晩注射されてた頃の　

医者→楽になる　の刷り込みか  

「医者には素直に全てを任せる」

「医者の前では何があってもマナイタノコイ」

がモットーのアタシである。  

つうかお医者様の前に行くと自然と全身の力がダラ〜ンと抜けるのね（笑）

幼児期の経験って怖いわ。

ちなみにいつか一晩中痛みで吐くほどの頭痛に悩まされ翌朝病院についたとたんにすっかり安心したのか待合室のベンチであろうことかヘラヘラと寝こけて母親を呆れさせたりもした。

正直に告白して医者好きである（笑）

んでもって話を戻すとその若センセイ、それを聞いた後アタシの腹部のアチコチを触診し、

次に一言。

「立ってください」

あ？

つーか分ってると思うけどマジで痛いのね。

横向きエビ体勢から仰向けにさせられただけでも辛いのに

その上アナタそんなアタシに立てと仰る？

なんとか医者に肩を支えられながら立つ。

立つけど腰に力が入らない。腰にも入らないけど足にだって入らない。

体勢はお腹を抱えるエビのままで、言うなれば「すっごい頑張ってトイレを我慢してる人」みたいな風情。おまけに肩を支えてもらっててもかなりふらつく。

それなのに医者はあろうことか支えてた肩にグっと力を入れてアタシをまっすぐに立たせようとする。

つうか鬼？このセンセ。

「あ、いいですよ。横になって」

「ん〜」

その後なんか言ってたけど立たされたせいでクラクラ度が激増してたアタシに唯一聞き取れたのは筋肉とか痙攣とかの単語。

んでもって「なので注射しときますね〜♪」

アイ、してください。注射。もうどうにでもしてください。

腕をダランと医者に差し出す。

「あ、腹這いになってください」

あ〜？

そのまま痛みを堪えつつ、すっごい時間を掛けて腹這いになる。

頭の中で「なんでこの歳になってオシリに注射なんだろう。」とふと思う。

「痛みのある場所のせいだろうか。それとも筋肉注射だから？つうかアタシの臀部ってば筋肉注射してもらえるほどの筋肉があるんだろうか」そんなくだらない考えが走馬灯のようにクルクルと頭のどこか片隅をかすめていった。

でもマナイタノコイなアタシにそれ以上追求できるはずもなく、追求したところで医者にそんな確認をする気力さえなく素直にそのまま注射されることに。

医者はその後サラサラと処方箋を書き始めそれから３分も経たないうちに筋肉が硬直してたせいか背中はまだダルかったけど痛みはすぅ〜っと時の彼方へ消えていった。

次の日の朝起きてカーぺットの上にポイと捨てられていたブツに気が付いた。

消毒に使った血液のついたコットンとケースには入っているものの 使い終わった注射針。

  ・・・・・・・・・。

 （センセ〜これってもしや医療廃棄物じゃあ？）

2004年3月10日水曜日（A Paris, Mercredi, 10, MARS, ,2004）