昨年秋に「スタンダーズ」という野心的なアルバムを出し、新たな一面を見せた“ジャズ・ピアノの鬼才”キース・ジャレットが新年早々来日した。

　キースといえば、ソロ・ピアノというイメージが強いが「スタンダーズ」では、ベースのゲイリー・ピーコック、ドラムのジャック・デジョネットとのトリオ編成で、スタンダード曲を実にシンプルでかつ大胆に解釈してみせた。70年代前半からキースが持続してきたのは、ソロ・ピアノでの全編インプロヴィゼーション（即興演奏）であり、その斬新さが一世を風靡したのだが、あえて伝統の枠を設定した上で新境地に挑んだというのが、このアルバムであった。

　今回の来日も、その成果を踏まえたものだったが、公演は残念ながらドラム奏者の急病でトリオ編成ができず、やむなくキースのソロ演奏に変更された。

　さまざまなニュアンスとシャープなビート感覚を持つドラムのジャック・デジョネットとキースとのインター・プレーを期待していたファンにとっては肩すかしを食わされた形となったが、逆にキースの華麗なソロ・ピアノを好むファンにとっては思わぬ“お年玉”となった格好だ。

　キースは、例の独特の激しく体を動かすスタイルでピアノを弾きまくり、聴衆を彼の「美学」の中に引きずり込んだ。特にブルースの演奏では「ジャズの伝統の見直し」という彼の持論が見事に表現されていて「やはり、キースはただ者ではない」と、改めて彼の音楽的スケールの大きさを痛感させられた。