Sep 7, 2005
| 新しい響きの世界 New soundscapes |
古代ロシアの響き──民謡とドゥドゥク duduk の音色の内に垣間見られるもの──と、現代の都市が生み出す騒音と自然の響き──雨音、風、鴎の啼き声──を混在させる、アンドレイ・デルガチェフ Andrey Dergatchev によるほとんど彫刻的と言ってもよいサウンド・スコアが、全体を通して激しいまでに情景を喚起させ聴き手に独特な体験をもたらします。
本アルバム《帰郷（「父、帰る」） The Return》は、音響を身体的に捉えるアプローチという面で、ゴダールの《映画史 Histoire(s) du Cinéma》（ECM 1706-10）や《ヌーヴェル・ヴァーグ Nouvelle Vague》（ECM 1600/01）のアルバムが達成している「質」を分かちもっているといっても過言ではありません。
2002年にオスロで旗揚げされたグループ「バタグラフ Batagraf」は、設立当初はオーガニックなドラミングへの関心を深めるための“プライヴェートな研究サークル”のような集まりでしたが、その後次第に“コンピュータ世代の硬直したグルーヴを一挙に追い抜く”ことを指向するように変わり、グループとしての活動目的を一気に転回させました。そしてヨン・バルケと仲間たちはバタ・ドラム Bata Drum 並びに他の打楽器の演奏に取り組む中で、響きの中にいくつかのメッセージを包み込む仕方を探究していきました。
本作ではノルウェー出身の若手サックス奏者フローデ・ニーモ Frode Nymo が力強い演奏で聴き手を魅了します。ゲスト奏者にはシゼル・アンドレセン Sidsel Endresen、アルヴェ・ヘンリクセン Arve Henriksen、ミキ・エンドイェ Miki M'Doye が名を連ねています。
ついにはひとつの儀式空間が顕現し、それが響きの集団的暴動へと雪崩れ込みます。
この新作アルバムはグラスゴー Glasgow でのライヴ録音です。アンサンブルの11人のメンバーは作品を形成する11個の素材であるとも言えますが、その中には現代音楽の作曲家リチャード・バレット Richard Barrett のほか、エヴァン・パーカーの古くからの盟友であるフィリップ・ワックスマン Phil Wachsman、ポール・リットン Paul Lytton、アグスティ・フェルナンデス Agusti Fernandez といった演奏家も含まれています。
《イレヴンス・アワー The Eleventh Hour》が贈り届けてくれるのは、偉大なる創意に溢れた音楽、そして広大無辺なる空間的な深さを湛えた音楽です。
(c) ECM Records, Munich. Used by
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